舟屋から見える伊根の歴史と暮らしの智慧

2021年2021年11月27日、「丹後の智慧と紡ぎ手に出会うオンラインツアー Vol.4 ~舟屋から見える伊根の歴史と暮らしの智慧~」が開催されました。

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【丹後の智慧と紡ぎ手に出会うオンラインツアーとは】
京都府北部に位置する丹後半島では、人々は昔から豊かな大自然と調和しながら、暮らし、働き、ものづくりをしてきました。
そこには永い年月を経て、紡がれてきた地域や暮らしの智慧が至るところに存在します。
そんな地域や暮らしの智慧を紡ぎ続ける魅力的な人々を紹介し、交流するオンラインイベントです。
主催:京都府丹後広域振興局(運営:一般社団法人Tangonian)

第4回目は、京都府伊根町で地域の方向けのまちあるきツアーや体験会の企画に取り組む伊根海蔵寺住職の天野 祐至 様を講師にお迎えしました。

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【講師】

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天野 祐至(Yuji Amano) 
伊根海蔵寺 住職

「この街の魅力を伝えるにはまず自分が楽しむこと」を目的に、地域の方向けのまちあるきツアーや体験会の企画を行っている。また、海蔵寺では、宿坊や精進料理、車庫を利用した期間限定の露店など、地域内外の方に伊根を楽しんでもらう新しい体験の企画を実施している。

目次

  1. 海蔵寺について
  2. 伊根の舟屋について
  3. サステナブルなもんどり漁
  4. 消防艇
  5. 伊根祭り

海蔵寺について

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海蔵寺は樹齢150年の桜で有名です。
夜になると、街灯が少なく真っ暗になる伊根の街にポっと浮かび上がったように見える桜の樹はとても幻想的です。このライトアップは天野さんが提案され始まったのですが、初めは「そんなことをしても意味がない」と反対意見も多かったそうです。しかし今では町のシンボルとなり、毎年春になると全国からこの桜を目当てに観光客やカメラマンが訪れるまでに。
天野さんはそんな桜の樹を守り続けるために、毎日欠かさず手入れを行っていらっしゃいます。

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また海蔵寺には宿坊もあり、宿泊されお客さんは精進料理を食べたり、座禅をしたりという本格的な体験をすることができます。
お部屋の中には天野さんのこだわりが沢山詰まっており、特に天橋立の龍をモチーフに描いてもらったという襖絵は圧巻でした。

天野さん:お寺も何もしなければ廃れていってしまいます。どんなに辺鄙な場所でも美味しいお蕎麦屋さんが繫盛するのと同様に、お寺もこのような取り組みをすることで沢山の人にお参りに来ていただけるようになります。

伊根の舟屋について

伊根舟屋群について
伊根湾は周辺約5㎞、それを取り囲むように立ち並ぶ舟屋は、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。日出、高梨、平田、立石、耳鼻、亀山など9地区から構成されており、現在は230軒の舟屋、130軒の土蔵などが軒を連ね、一番古いものでは江戸時代後期のものを見る事ができる。

伊根町といえば舟屋で有名です。湾内に230軒ほどの舟屋があり、そのような舟屋を見に毎年大勢の観光客の方が来られます。

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今回は天野さんに舟屋の中へ案内していただきました。
外側からは見たことがあっても、舟屋の中は見たことがありませんでした!

<1階部分>
建物に入ってすぐこの景色!

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家の中が海に繋がっているのはとても新鮮な光景です。
また近くにはキッチンに包丁まな板が置いてあり、獲った魚をその場で調理して食べられるようになっていました。

天野さん:舟屋はそもそも漁師の方々が船を入れるためのもの。車を車庫に入れるのと同じです。
昔の人により本当に良く考えて設計されていて、例えば昔は船が木製だったので、船底が痛まないよう海水から持ち上げて収納できるようになっています。そのため、建物自体も斜めに造られているんです。ただ現在は2階部分も生活するようになったため水平になっています。
また、波や潮風が舟屋の中に入りすぎないように入口は小さく設計されています。

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今は1軒も残っていないという茅葺屋根の舟屋

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<2階部分>
2階部分はオーシャンビュー!圧巻の景色でした。

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なんと2階から釣りをすることも出来るそう!釣り好きにはたまらないシチュエーションですね。
「釣りバカ日誌」でも舟屋の2階から釣りをするシーンが有名です。
また夏になると子供たちはこの2階部分から海に飛び込んで遊ぶそう。羨ましいですね。

伊根は需要伝統的建造物群に指定されているため、看板や自動販売機を置くことが禁止されている他、建物が老朽化しても許可なしに潰したり新たに建設したりすることができないそう。
このような厳しいルールの下でこのタイムスリップしたような情景が保たれているんですね。

サステナブルなもんどり漁

魚をさばいた時に出てくるあらなどの食べられない部分は生ごみにせず、ポイっと海に投げるのが伊根流。すかさずカモメが飛んできて食べてくれるそうです。

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実際に天野さんが身振り手振りでご説明されている最中にもカモメが餌だと勘違いをして飛んできていました(笑)

また伊根には昔から「もんどり漁」という漁があります。魚をさばいた時に出てくるあらなどを籠の中に入れておき家の前から沈めておき、それを翌朝引っ張り上げてみると色々な魚がかかっているという優れもの!釣りのように技術や忍耐のいらない夢のような漁です。
このもんどりは伊根町のほとんどの家庭にあり、子供もお手伝いするそう。

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天野さん:毎日何が獲れるか引き上げるまで分からないというワクワク感があります。たまにタコやサザエなどの大物がかかっていることもあるんですよ!
毎日晩飯のおかずには困りません。なので、もちろん伊根町にはスーパーも魚屋もありませんよ。

伊根町の方はもんどり漁で獲れた魚、もしくは漁協にマイバックならぬ“マイバケツ”を持って行き直接買い物に行かれるそうです。

もんどり漁で獲れた魚から出たあらはまた籠に入れておきそれを餌に新たな魚を獲る。これこそサステナブルですね。

消防艇

舟屋は木造で隣同士隙間なく密集して建っているため、火事が起これば大変なことになってしまいます...
そこで伊根では消防車の代わりに地元の消防団による消防艇(船タイプ)が登場します。
消火方法は海水による放水!
天野さん曰く、火事があったお隣の舟屋はこの消火作業のおかげで火災は免れても、海水によりダメになってしまうとか...この状況何とも複雑ですが、やはり人命救助が第一です!笑

伊根の町中を散策すると沢山の蔵を見ることもできます。

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この漢字「たから」と読むそうです。きっと大切なものをここに保管されていたんでしょうね。この文字は鏝絵(こてえ)といい、漆喰を塗る時に使う鏝で書かれているのが特徴です。
鏝絵にも様々なバリエーションがあり、文字だけでなく絵のタイプもあるそうです。

伊根祭り

伊根には「海の祇園祭」と呼ばれる盛大なお祭りがあり、なんと船の上に大きくて立派な神楽を建てて行われるそうです。

ただこのお祭りは多額の費用がかかることもあり大漁の年にしか行われないそうです。最後に天野さんがこの祭りを見られたのも8年前で、地元宮津高校の研究のために特別に行われたそう。

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写真で見てもこの迫力の伊根祭り。是非一度実物を見てみたいものです。

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今回海蔵寺の天野さんに伊根の歴史や、舟屋のこと、そこに住む人々の暮らしについてお話をお聞きし、都市部では忘れられかけている無駄がなく自然と調和した暮らしがまだ伊根には根付いているんだという事を強く感じました。
また、天野さんがいかに伊根の町を大切に思われているかが、町のシンボルであり続けられるように毎日欠かさず手入れをされているという樹齢150年の桜から伝わってきました。

Writer:岸 あやか (一般社団法人Tangonian)